モデル238Bレストレーション
〜未知な逸品

Model 238B "One of a Kind"
 


2015年2月、 オークション転送サービスをご利用頂いている方からのご依頼を受け開始した希少モデル238Bのレストレーション。最終点火テストを終え、無事にお引渡しできるまで至りました。主に輸出向けとして製造されていたこのモデル、未知な逸品と言っても過言ではない希少モデルです。

Check!

まずは焦らず、現状をじっくりと観察しながら診断の開始です。ご覧頂けるよう、十二分に使用されていただろうと想像できる使用感が確認できます。同時に、オリジナルの状態を可能な限り写真に収めておくことも重要な作業のひとつです。慌てて分解をしてしまうと、後になってどのパーツがどの部分にどのように収まっていたかななど、意外と困ってしまうことがあります。

ブラス部分がすすで真っ黒、加えバーナーケージ内ヒートシールドは錆ついています。このあたりは由として、難関はフレーク状になった“タンク”の劣化具合です。さてどうしよう・・・・。このニッケルプレート処理されたタンクを磨き上げる場合、初期の判断が非常に重要です。このタンクの場合、かなり沢山のフレーク(粒々)が散乱していますが、ニッケルプレートをひどく犯してしまうほどではありません。このパターンの劣化具合の場合は、“あの方法”にて処理をしていきます。

このモデルの特徴でもあるアルミ製のベンチレーター、磨き込めば相応に輝きを復元できるレベルです。しかし、灯油モデル故にベンチレーター内部はすすだらけです。同じくアルミ製のバーナーケージの縁がかなり黒こげ状態になっていることに着目。ここから想像できるに、プレヒートが不十分なまま点火を試みるとこのあたりまで火が立ち上り火達磨状態になってしまうのでしょうか・・・?いずれにせよ、ホワイトガソリンタイプとは異なり、十二分にプレヒートを行うことの重要性がうかがえます。

コールマンのモデルとしては珍しいプレヒートバーナーを備えています。メンテナンス後の感想として、この装備は良し悪しありと感じましたが、個性という意味ではまずまずの装備かと思います。タンク周りのフレークも困ったものです・・・・。タンク内はどうえしょうか、ガスキャップ周りの状態から想像するに、年代相応の錆がでている予感がします。

誇張するかのようにデカデカとカラーに彫られた238Bの刻印、ここも手を入れてあげなければ。ブラス製のジェネレーターも真っ黒。貴重なセラミック製のバーナーキャップの取り外しには慎重にならなければいけません。この時、無理に回転させることはせず、ゆっくりと少しづつ手の感覚頼りにゆっくりと外していきます。

Disassemble     

まずはバーナーケージ中央にある長いねじを緩め、ヒートシールド、そしてバーナーケージを外していきます。ヒートシールドは錆がびっしりと出ています。ねじもアルミ製のようですが、やや耐熱策について疑問点が沸きます。実用を考えると、このあたりは同サイズの鉄のねじに交換しておくのも良いかと思います。

ジェネレーター、カラーを外します。カラーを外そうとするとやや引っ掛かり気味・・・。

プレヒートバーナーノブを外さないとカラーが取れないようなので、これをまず先に外しカラーを外していきます。

ピストルの消音機のようなバーナー、六角状の噴出部分にはめ込まれているだけなので、簡単に取り外すことができます。ここでもタンクの劣化具合を見て、どの磨き込み方法で行くかを検討中。

メインバルブアッシーを外していきます。赤いノブ裏にはCANADAの文字がありました。3枚目の写真、エクセントリックブロックと連動する部分はこんな構造です。クリーニングニードルとバルブのシャットオフとシャットオンの動作を兼用している構造のため、一般的なタイプとはやや操作方法が異なります。

プレヒートバーナー用バルブアッシーを外していきます。この先端はケロシンを噴射させるためのノズルとなっています。その後、タンク内に挿入されているチューブを取り外していきます。

バルブアッシーからエクセントリックブロックを抜き取り、バルブアッシーをタンクから取り外します。特徴ある形をしたフィードチューブ、この錆の付具合からタンク内も相応の錆を確認。タンクを一通り分解した後、次はバーナーケージの分解へと進みます。※注意)プレヒートバーナー用パーツの一部がまだタンクに付いたままですが、この部分は取り外してはいけません(無理に外そうとしないように!)。

熱により発生した錆に加え、点火時に火が回ったのでしょうか、かなりのすす跡がこびりついています(3枚目)。

バーナーケージもユニークな構造です。アルミ素材ゆえに、熱の影響をずいぶんと受けているようです。固く錆付いたナットやねじを外す際、専用液を散布してから取り外していきます。

各部品をなくさないように・・・。一通り分解し、クエン酸液に漬け込んでいきます。クエン酸(Citric Acid)はレモンなどに含まれる酸で、当方では市販のクエン酸の代わりに、レモン汁を使用することも多々あります。その効果についてはレモン汁も十分威力を発揮します(クエン酸ですから・・・)。

Cleaning

掃除する手順として、各パーツを洗浄している間を利用し、タンクを磨き上げていきます。主にニッケルプレートコーティングされたタンク(上記のような)の場合、その劣化具合で磨き始めの方法が分かれてきます。その状態を見極めることなく、いきなり研磨剤を塗り磨き始めてしまうとかえって駄目にしてしまうことがあります。時としてやわらかいスポンジと中性洗剤を使い、磨く前にゆっくりとお風呂に入れてあげるようなことも必要です。詳細は割愛させていただきますが、研磨剤を塗る段階まで来た後、研磨剤をタンクまんべんに塗り、磨き込んでいきます。1枚目の写真は専用(秘密の)布を使い磨き込み初段階で、3枚目の写真は約20分ほど磨き上げた状態です。ここまでは全て手作業での磨き上げです。タンクの磨きあげのノウハウ詳細はこちらにて

途中、あれやこれやと技を駆使し、磨き込みを開始してから約2時間ほどが経ちました。結果、さらに輝きを増し、満足のいくレベルまでようやく到着といった感じです。

       ←こちら、磨き上げる前の状態です。無数の小さな擦り傷とフレークがありました。 Before


上記写真は、タンク内を錆取り処理した後、洗浄をしている様子です。こまめに複数回、洗浄を繰り返します。最後は電気ヒーターの熱で十分に乾燥させます。錆取りの詳細説明はこちらにて

タンク内の乾燥は時間(日数)を十分に掛けることが大切です。その後、タンクシーラントを流し込み、タンク内をシーラント加工します。2枚目の写真はまず1回目のシーラントを流し込んだ後です。フラッシュライトの光を当てると、内部に流し込んだシーラントが川の流れのように行き来しています。初回シーラントを流し込んだ後、2日ほど乾燥をさせ次のシーラントへと進みます。タンク内部を良く確認しながら、シーラント処理具合を確認していきます。シーラントを流し込む際、構わず流し込んではいけません。適切な角度、位置、その量を確認しながら少しずつ慎重に作業を進めていきます。この238Bの例では、3枚目の写真(↑)のガスキャップからタンク内に見えているチューブ先端、これを塞いでしまうようなことのないように注意が必要です。シーラントを流し込む回数については状況次第で決定します。

タンクのシーラント加工の仕上がり具合を確認中です。またベンチレーターは荒磨きをした後、8割ほど磨き上げた段階です。

ほぼ一通りの磨きを終え、いよいよ再度組み上げていきます。各パーツの内部も綺麗にクリーニング済みです。

各パーツの先端までしっかりと磨き込みをかけています。チェックバルブは不良だったため、後に交換となりました。チェックバルブの不良は意外とあります。中のボールベアリングが問題なく“ころころ”と動いている場合でも、正常に機能しないことがあります。この不良の判断の見極めとしてポンピングをした際、1)タンク内の空気圧がポンピングの回数に対し、ほとんど掛かっていない、2)ポンピングした後、ノブがキックバック(圧力で戻される)現象があると、この2点が確認できた場合です。これとは別に、ボールベアリングが固着しているような場合だけで不良との判断はできません。各ブラスパーツはバフィングでぴかぴかです。

Tune-Up

特徴あるジェネレーター(3つのパーツにて構成)、本体内部のすす取りをしっかりと行うことが肝心です。

皮パッキンも調子が悪く一部切れかけていたため、即交換です。バルブは利き具合を調整しながらチューンアップしていきます。

バルブアッシーを締め付ける際、もう一方のプレヒートバーナーアッシーとの位置関係に注意しながらしっかりと締め付けを行います。必要に応じて、ペースト状の耐熱ガスケットシーラントを使用し強化します。この段階でポンピングを行い、空気漏れしている箇所がないかを確認していきます。空気漏れは締め付け箇所、ガスケット、ガスキャップ、タンクの亀裂(主に錆が原因)などに生じることがありますが、万が一タンクに亀裂があり空気漏れしているような場合は水槽にタンクを入れ、漏れている箇所を特定します。



Assemble

機関部の整備、調整を終えいよいよ組立開始です。基本、分解したて順の逆順に組み立てていきます。



最後にねじを留め、ひとまず組立完了です。


下から覗き込み、カラーがきちんとバーナーケージの枠に収まっているかを確認します。

Polish

一応に磨き上げてはいますが、組立後、見えないようなところも含めもう一度全体的に磨き上げます。


Lighting Test Part1  プレヒートバーナーを使用しての点火結果

ホワイトガソリンのモデルになれてしまった場合、“ケロシンモデル”の点火に四苦八苦するようなこともあります。また、プレヒートを要するクイックライト系のランタンやランプに慣れているような場合でも、同じことが言えます。一番大切なのは十二分に時間を掛けてプレヒートを行うことです。ホワイトガソリンとは異なり、なかなか気化しないケロシンはそう簡単には点火しません。このモデルの場合、特徴あるプレヒート用バーナーを備えているため、非常に効率よく、かつ便利そうに見えますが、正直なところ賛否両論では?と言うのが正直な感想です。

その理由ですが、上記で触れたように元々揮発性の低いケロシンを無理やり霧吹き状(まず気化はされていないはず・・・)にし点火させるため、確かにものすごい勢いでバーナーがけたたましく炎をたてる一方、着火しなかったケロシンが無数に飛び跳ね、ガラスグローブ内部をはじめ、バーナーケージからカラーを伝わり、タンク上に染み出てきます。ケロシン故、ホワイトガソリンのように気化したガスが引火し、火達磨になるようなことはないようですが、幾度となく試した結果、この方法(プレヒートバーナーを利用しての)での点火はお勧めしません。コールマンのランタンとしては確かに珍しい機能を兼ね備えていますが、やや無謀な装置でプレヒートカップにアルコール入れ、一般的なケロシンランタン(ランプ)の点火方法で点火するのが良いと思います(あくまでも個人的な意見です)。

正直なところ、この希少なモデルである238Bですが、過去に何回か目にしたことはあったものの今まで点火した経験はありませんでした。そのため、今回レストレーションを行った一台だけで断言することはできず、全ての238Bが同じ状態であるか判断することはできません。本来、数台の同モデルを前に『検証』したいところですが、ほぼ120%無理なことだと思います。※フィリピン人の知り合いで古いものを収集し、それを売ることにより生計を立てている彼がいますが、10年以上前にその彼の家のガレージにこのモデルがあったことがありました。当時、『赤ランタン』に熱を燃やしていた時代ゆえに、他にもあった220ファーストモデルやL427、そしてこの238Bなど目にくれることなく、赤ランタンだけを譲りかえってきたことがありました。今思えば非常に惜しい思いですが、その後日談として定期的にファリピンに里帰りをする彼の話によると、フィリピンでは今も結構な頻度で見かけるらしいです。しかし、彼にとってオールドコールマンは収集しているグッズのひとつであり、特別オールドコールマンの知識があるわけではないので、その真相は定かではありません。類似するランタンやコピー版を見てこのように信じているのかもしれません・・・・。

さてここで同じモデルを比較しながらの実検証は困難な代わりに、ユーチューブにそのヒントとなるビデオが投稿されていましたので、このビデオを検証しながら勝手なうんちくを語りたいと思います(以下)。

まずは先に上のビデオをご覧ください。一生懸命50回ほどのポンピングをした後、プレヒートバーナーに点火し、またポンピングを追加しています。その後、約1分弱プレヒートさせた後、メインバルブを開きマントルに灯りを灯しています。その直後、プレヒートバーナーを閉じ、無事に安定した灯りが灯ったところでビデオが終了しています。とてもスムーズで手際よい点火に見えますが、このビデオを何十回と繰り返し見た後一つの疑問が沸いてきました。もう一度このビデオをご覧ください。時間にして“38秒”のところです。ライターでプレヒートバーナーに点火するためバルブを開け点火しようとしたところ、ライターが付かずややてこずっている最中、もくもくと煙が上がっています。この“煙”、察するにケロシンが気化したものと思いますが、プレヒートもしていない段階でこれだけ気化したケロシンが出ていることから、少なからずこのビデオを撮影する直前に、一度点火されていることが想像できます。

あくまでも憶測ですが、恐らくビデオ撮影をする事前の点火では私が体験したように四苦八苦したのでは?と思います。また、確かに初めてあのプレヒートバーナーの火力だけを見た場合、あっと言う間にプレヒートできてしまうような錯覚になりがちですが、『燃料がケロシン』ということを前提に考えると、幾らなんでも短時間過ぎるのでは?とも思います。通常、プレヒートカップが付いているケロシンモデルを点火させる場合、10分前後ジェネレーターを暖める癖がある私にとってはなおさらなのかも知れません。

 

Lighting Test Part 2 プレヒートバーナーを使用せず、別方法での点火結果

点火テストパート1では、プレヒートバーナーを使い点火を試みました。四苦八苦はしたものの、機関に異常も見られず問題なく点灯しました。約40分くらいのテストを行いましたが、息切れすることもなく始終安定した灯りを灯してくれました。しかし、やはりその点火方法が今ひとつ腑に落ちないため、点火方法が悪いのか、それともどこか機関上の問題なのか・・・?と頭をひねりながら数日にわたり同じ方法で点火を試みてもやはり結果は同じでした。先のビデオ同様、一度点火しまだまだ余熱の残っているうちであれば、確かにプレヒートバーナーを使用することでスムーズに点火することができました。

絶対にこれが正しいということでは無く、今回この一台から検証した限りでの結果から判断するに、冷えたままのランタンを点火する場合であれば、点火はプレヒートバーナーを使用せず、またタンクのポンピングは5回程度に抑え、ジェネレーター全体をガストーチを使い暖めてあげるのが一番だと感じました。この方法であれば、ケロシンが気化してきた段階で勝手にマントルに火が灯ります。マントルに火が灯った段階でバルブノブを開き、ポンピングを追加することにより何の苦労なし安定した灯りを得ることができます。正直、このモデルの詳細(仕様)についてはっきり把握することができないため、本来プレヒートカップが付いているのかも知れませんが、もし機会があれば自作プレヒートカップを取り付けてあげるのも良いかと思います。以下、今回レストレーションをさせていただいた238Bの動画となります。

The Sunshine of the Night!

 

オールドコールマン収集をパワーアップさせるお手伝い